神戸地方裁判所 昭和44年(行ウ)45号 判決 1973年11月01日
兵庫県伊丹市南本町五丁目一七番地
原告
大宝電化工業株式会社
右代表者代表取締役
作野寛美
右訴訟代理人弁護士
野村清美
同
田中恭一
同
吉水三治
兵庫県伊丹市溝口七三番地
原告
伊丹税務署長
右指定代理人
竹原俊一
同
山田太郎
同
水口由光
右指定代理人
坂梨良宏
同
前垣恒夫
同
柳岡巧
同
高橋洋三
同
柴田和利
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
(当事者の求める裁判)
一 原告
(一) 被告が昭和四二年一二月一九日付でなした原告の自昭和四二年四月一日至同年同月八日事業年度分の法人税決定処分並びに、無申告加算税及び重加算税の賦課決定処分を取消す。
(二) 被告が昭和四二年一二月一九日付でなした原告の自昭和四二年四月一日至同年同月八日事業年度分の青色申告書提出承認取消処分を取消す。
(三) 被告が昭和四二年一二月一九日付でなした原告の昭和四二年四月分源泉徴収にかかる所得税の納税告知処分及び不納付加算の賦課決定処分を取消す。
(四) 訴訟費用は被告の負担とする。
二 被告
主文同旨
(原告の主張)
一 被告は、原告に対し昭和四二年一二月一九日付で
(一) 原告の自昭和四二年四月一日至同年同月八日事業年度の法人所得につき所得金額二〇、三七八、五八一円、所得税額七、一一四、八〇〇円、無申告加算税一一、四〇〇円、重加算税二、四五〇、〇〇〇円とする決定処分
(二) 原告の同四二年四月分の源泉徴収にかかる所得について所得金額二〇、〇〇〇円、所得税九、二八六、五六〇円、不納付加算税九二八、六〇〇円とする決定処分
(三) 原告の自同四二年四月一日至同年同月八日事業年度分の所得申告について青色申告書提出承認取消処分をなした。
二 原告は前記各処分に対し同四三年一月一九日付で被告に対し異議申立をなしたところ、被告は同四三年四月一六日付で執れも棄却決定をなしたので、同四三年五月一七日付で審査請求をなしたところ同四四年六月五日付で審査請求を棄却する旨の裁決かなされ右裁決は同年一〇月七日原告に通知された。
三 しかし前記(一)乃至(三)の処分は違法であるから之が取消を求める。
四 被告主張営業譲渡の事実は否認する。訴外田中喜一は自己が所有する原告明星の全株式一二、〇〇〇株を代金二四、〇〇〇、〇〇〇円で訴外沢春蔵に譲渡したが、訴外春蔵は、株式の譲渡後名義書換前に田中が原告明星の代表取締役として会社財産を処分する虞があることを慮り、売買契約書上では「譲渡人は明星タクシー株式会社の営業権、土地、‥‥‥営業上必要とする一切の物品その他を株式譲渡の形式で譲渡人に完全に譲渡する」との趣旨の表現をとつたに過ぎない。
従つて訴外田中個人の訴外沢春蔵に対する株式譲渡代金については原告明星は受入経理すべき根拠はなく、又株式売買代金は専ら田中個人に帰属すべきものである。
五 被告主張三、(一)乃至(三)は認める。
(被告の主張)
一 原告主張一、二の事実は認める。
二 被告が原告主張の各処分をなした根拠は次の通りである。
(一) 原告は元商号を明星タクシー株式会社(以下原告明星と略称)と言つたが、同四二年四月八日株主総会の決議に基き解散したが、同四二年五月八日会社継続登記(代表取締役田中喜一)をなし、同年五月一〇日商号を明星産業株式会社と、更に同年六月二〇日商号を大宝電化工業株式会社(代表取締役箱田未治、及び作野寛美、取締役田中喜一)と変更し現在に至つたものである。
(二) 原告明星は、自昭和四二年四月一日至同年同月八日事業年度(以下係争年度と言う)における法人税確定申告書を被告に提出しなかつた。
(三) そこで被告が原告明星の帳簿及び決算書等の調査をした結果係争年度の決算書に計上された利益金額は、三七八、五八一円であること、原告明星はその所有する営業権を同四二年四月七日兵庫日本交通株式会社に二〇、〇七一、一六一円で譲渡したがそのうち二〇、〇〇〇、〇〇〇円は帳簿に記載していないことが判明した。
三 右計上利益三七八、五八一円算定の根拠は次の通りである。
(一) 運送収入 四〇九、四六〇円
(1) 昭和四二年四月一日分 九九、〇〇〇円
(2) 同 年同月二日分 一一六、五一〇円
(3) 同 年同月三日分 一〇九、七四〇円
(4) 同 年同月四日分 八四、二一〇円
合計 四〇九、四六〇円‥‥‥‥‥(イ)
(二) 営業費用 一〇二、〇四〇円
(1) 事故費 一〇〇、二〇〇円
(2) 図書印刷費 五八〇円
(3) 支払手数料 九八〇円
(4) 交通費 二二〇円
(5) 通信費 六〇円
合計 一〇二、〇四〇円‥‥‥‥‥(ロ)
(三) 営業利益 三〇七、四二〇円((イ)-(ロ))‥‥‥‥‥(ハ)
(四) 営業権譲渡益のうち社内留保分 七一、一六一円
(1) 営業譲渡代金 二〇、〇七一、一六一円
(2) 社外流出分 二〇、〇〇〇、〇〇〇円
(3) 社内留保分 七一、一六一円((1)-(2))‥‥‥‥‥(ニ)
従つて原告の計上利益額は三七八、五八一円((ハ)+(ニ))となる。
尚右社外流出分は訴外田中喜一が収受した。
四 営業譲渡の経緯
訴外兵庫日本交通株式会社々長沢春蔵と原告明星社長との間で原告明星の営業権譲渡について話合がなされたが、その当初原告明星社長田中喜一から田中喜一個人所有の原告明星の株式の買取を求めた。右申出は拒否され交渉は原告明星の営業権を含む一部資産の譲渡を目的として進展し、その際原告明星の債権債務の処理、運転手の人員整理が問題となり、右人員整理については原告明星の社長田中喜一が責任を以て解決するが、債権債務の処理については、原告明星の資産に計上している簿価二〇、〇〇〇、〇〇〇円の土地所有名義を田中喜一名義に変更し、原告明星の神戸信用組合からの借入金二五、〇〇〇円を右田中が肩替りして支払う、訴外田中の原告明星に対する貸付金は三、五〇〇、〇〇〇円を限度に原告明星から返済を受けることとするなどを主たる条件として、原告明星の資産負債を一括して訴外兵庫日本交通が譲受け一切を処理して貰いたい旨の要請があり訴外兵庫日本交通も之を承諾し、同四一年一二月二〇日営業権が前記代金二〇、〇七一、一六一円で兵庫日本交通に譲渡せられた。
唯右営業権と一部資産譲渡を完全に実現させる手段として、訴外田中喜一所有の原告明星の株式を訴外兵庫日本交通社長の沢春蔵に名目的に譲渡することになり、発行済株式一二、〇〇〇株を二四、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡する旨の契約書が作成されたに過ぎない。
そして、前記営業譲渡契約に基て運輸大臣に許可申請がなされ、同四二年四月七日付で認可があり道路運送法第三九条第一項により同日、右契約による営業譲渡が効力を生じたから被告は右認可の日を以て営業譲渡の日と認定した。
五 従つて被告は
(一) 前記原告の計上利益三七八、五八一円と営業権譲渡益のうち祉外流出分二〇、〇〇〇円の合計額二〇、三七八、五八一円を原告の所得金額として原告主張の(一)の決定を
(二) 右営業権の譲渡金額二〇、〇七一、一六一円のうち二〇、〇〇〇、〇〇〇円が原告明星の帳簿に記載されていないので法人税法第一二七条第三項該当として原告主張(三)の処分を
(三) 右営業権の譲渡代金のうち二〇、〇〇〇、〇〇〇円は訴外田中喜一が取得している事実が確認されたので法人税法第三五条第四項により原告の訴外田中喜一に対する賞与と確定し原告主帳(二)の処分を
孰れもしたものである。
(証拠関係)
原告は甲第一号証の一、二、第二号証、第三号証の一、二、第四第五号証、第六号証の一、二、第七号証第八号証の一、二、第九乃至第一二号証第一三号証の一、乃至三を提出し、証人田中喜一の証言を援用し、乙第五号証の一、二、第七号証、第八号証の一乃至五は成立を認めるがその余の乙号各証は不知と述べ
被告は乙第一乃至第四号証、第五第六号証の一、二第七号証第八号証の一乃至五を提出し、証人沢厳、同伊藤武雄の証言を援用し甲第一〇号証第一三号証の一、二は不知その余の甲号各証の成立は認めると述べた。
理由
一 原告主張一、二の事実は当事者間に争がなく、成立に争いがない甲第一一、第一二号証によれば、原告会社は元商号を明星タクシー株式会社と称していたが、昭和四二年四月八日株主総会の決議に基き解散したが、同四二年四月八日株主総会の決議に基き解散したが、同四二年五月八日会社継続登記をなし、同年五月一〇日商号を明星産業株式会社、同年六月二日商号を大宝電化工業株式会社と変更し、現在に至つていることが認められる。
二 原告主張一の各処分の根拠
成立に争のない甲第九号証、乙第五号証の一、二、第七号証、第八号証の一乃至五、証人沢巌の証言により成立の真正を認め得る乙第二、第四号証、第六号証の一、二、証人伊藤武雄の証言により成立の真正を認め得る乙第三号証と証人伊藤武雄、同沢巌の証言によれば、昭和四一年一二月二〇日、原告明星の代表者田中喜一と訴外兵庫日本交通株式会社代表者沢春蔵を代理した取締役沢巌との間で、原告明星のタクシー営業用の土地、事業用自動車、事業用施設及び設備、電話工具什器備品タクシー営業にかかる債権債務を含めてのタクシー営業上の積極消極財産全部を代金二〇、〇〇〇、〇〇〇円と定め右訴外会社に譲渡する旨の契約がなされたこと、右の営業譲渡の契約は所轄陸運局長の許可がその効力発生要件をなしているため、右許可を受ける迄株主総会の特別決議その他の法的手続を経る必要があり、その履践を円滑にするためと、二重の営業譲渡を防止するために、原告明星の全株式一二、〇〇〇株を訴外会社に提供することが約されたほか、原告明星の従業員を以て組織する労働組合に対する対策上解決金の必要が予想されたため、右譲渡代金のほかに別途四、〇〇〇、〇〇〇円を訴外会社が出捐することとし、同日付の契約書上では譲渡代金を二四、〇〇〇、〇〇〇円とし、原告明星の全株式を沢春蔵に譲渡する形式がとられたが、その実質は営業上の積極、消極財産を二〇、〇〇〇、〇〇〇円で譲渡することにあつたこと、右譲渡代金は訴外田中の希望により、前記譲渡契約発効前の同四一年一二月二〇日一〇、〇〇〇、〇〇〇円、同四二年三月一六日に残金一〇、〇〇〇、〇〇〇円が訴外田中に交付されたこと、訴外会社においては右契約に基き原告明星の営業財産について照合をなした結果、資産合計が二〇、九一一、三三一円、負債合計が二〇、九八二、四九二円であることが確認され、その差額七一、一六一円は訴外会社が返済すべき債務となつたこと、この間右営業譲渡の許可申請がなされ同四二年四月四日大阪陸運局長より許可がなされ、原告明星のタクシー営業は同日を以て廃止され、原告明星は同月八日解散したが、同年四月一日より同月四日迄の原告明星の運送収入、営業費用、営業利益は被告主張通りであることが認められる。
右認定に牴触し原告明星の株式一二、〇〇〇株が訴外田中喜一、沢春蔵間で代金二四、〇〇〇、〇〇〇円で売買されたとする証人田中喜一の証言は前掲証拠と対比し、且証人沢巌の証言により認められる冒頭認定の原告明星は会社継続の登記をなし商号を変更現在に至つているが、之に沢春蔵、沢巌は全く関与していないことに鑑みても採用することができない。
三 してみれば原告明星の自昭和四二年四月一日至同月八日事業年度の法人所得は、前記営業譲渡代金二〇、〇〇〇、〇〇〇円に譲渡にかかる資産負債の差額七一、一六一円を加算した営業譲渡による収入と右期間内の営業利益金三〇七、四二〇円とを合計した二〇、三七八、五八一円と認むべきところ、原告明星は右係争年度の法人税確定申告書を提出せず、且営業譲渡代金二〇、〇〇〇、〇〇〇円の受人記帳がなされていなかつたこと、及び右二〇、〇〇〇、〇〇〇円は株式譲渡の対価として処理され訴外田中喜一個人が取得していたことは弁論の全趣旨により当事者間に争がないと認められるから、被告が原告明星の本件係争年度における法人所得を二〇、三七八、五八一円と認定し原者主張一、(一)の処分をなし、又法人税法第三五条第四項により営業譲渡代金二〇、〇〇〇、〇〇〇円を原告明星の訴外田中喜一に対する賞与と認定し原告主張一(二)の処分を、更に法人税法第一二七条第三項に該当するとして原告主張一(三)の処分をなしたことには違法はない。
四 以上の次第であるから原告の本訴請求は理由がないから之を棄却し、訴訟費用負担については民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。
(裁判長裁判官 松浦豊久 裁判官 神保修蔵 裁判官 鈴木清子)